君の胃袋を掴む
それであの修羅場。もう誰が憐れなのか分からない。
暗い廊下を行き、昇降口まできた。
靴箱からローファーを出して落とす。
「信じる者は救われるのに」
その言い方が冷たく、革靴を履いた雅宗の横顔が寂しく、長い睫毛に苛つく。
「それを言って良いのは真実を話した人間だけでしょ。嘘をついた雅宗にそんなことを言う資格はない」
柄にもなく、説教みたいなことをしてしまった。
視線を感じてそちらを見ると、きょとんとした顔が向けられていた。居心地が悪い。
「……なに?」
「小梅ちゃん、僕専属のシェフに」
「断る」
面倒な人の胃袋を掴んでしまったらしい。