月下の少女
今日も相変わらず全身真っ黒の服装に身を包み、車椅子に乗ってある場所に行く日。
約束を果たしに行く。
車椅子を押すのは瑞希で傍から見れば異様な光景だ。
深夜に繁華街を関東連合のトップが車椅子を押して歩いてるなんて。
でももう周りの目を気にするのは辞めた。
私には周りを気にしなくても、他に大事にしなきゃいけないものができたから。
「「「お疲れ様です!!!!!」」」
「だからそういうのいいって何回も言ってるだろ?」
「瑞希はそういうの好かないって。お前らもそろそろ学びなよ。」
このやり取り、懐かしい。
「「「春陽さん!!!おかえりなさい!!!!!」」」
「春陽ちゃんおかえり。」
「春陽さん、おかえりなさい。」
「春陽さん、体は平気か?」
関東連合のメンバー、昇さん、雪也さん、淳治さん
今日は退院して初めて関東連合の溜まり場に来た。
“月”
もうそう呼ばれることは無いかもしれない。
“春陽”
〈春の太陽のように暖かい人に〉
そんな意味が込められていると幼いころ聞いたことがある。
私よりこの名前が似合わない人なんていないだろう。
でも、私の名前を呼んでくれる人はこんなにも沢山いる。
私の帰りを待っててくれた人がこんなにも沢山いるんだ。
私は思わず笑みがこぼれメンバー一人一人の顔を辿っていく。
私が見るとみんなは太陽みたいな笑顔で返してくれた。
本物の太陽なんて知らない。
私にとっての太陽は彼らだ。
ここで私は生きていく。
彼らと手を取り合いながら生にしがみついて。
私はみんなの顔をしっかり見つめて、最後に瑞希に視線を向けた。
「春陽、おかえり。」
「ただいま!」
倉庫の中を風が吹き抜け、少女のパーカーのフードを攫う。
フードで隠れていた少女の顔が露になり、その顔は誰よりも輝き、目元には涙がうっすら光っていた…。