月下の少女
あと20分程で朝日が昇る。
メンバーたちもそれを待ちわびている様子だ。
無言でその瞬間を待っていると、徐々に空が明るくなってきて、水平線上に太陽が浮かんできた。
綺麗だ。
素直にそう思ったが、その瞬間、バイクのライトを見て春陽が「きれい…。」と呟いたのを思い出した。
この景色を見た春陽も、同じようにつぶやき、また穏やかな表情を見せてくれただろうか。
そんなことまで考えてしまう。
俺は思わずスマホに朝日の写真を納め、暫くその光景を眺めていた。
太陽が昇りきると、帰り支度を始めた。
毎年朝日を見たあとは現地解散で、それぞれ見飽きた者から散っていく。
俺は乗ってきた車がない代わりに、昇のケツに乗って帰ることとなった。
俺はそのままonyxに寄るよう昇に伝え、黙ってバイクにまたがる。
朝の風は少し冷たいが太陽が俺たちを照らしより目が冴える。
20分程でonyxに到着し、昇とはそこで別れた。
カランコロン
「瑞希、終わったか。」
「はい。春陽は?」
「ここに着いた瞬間自分の部屋に籠ったきりだよ。俺にも何があったかは分からない。」
「そうですか…。」
なにが春陽をあそこまで変えたのか、それが分からないことにはどうにもできない。
ただ、一つだけ、夜しか生きられない、春陽はそう言った。
その言葉の真意を知るには、それなりの覚悟が必要な気がした。
「これ、俺の連絡先です。後で春陽に渡してください。しばらくは部屋から出て来なさそうなので、俺も帰ります。何かあったら連絡ください。公弥さんも今日は色々とありがとうございました。」
「瑞希もお疲れ様。ハルちゃんには連絡するように俺から伝えておくよ。」
その後、公弥さんに一礼し俺はonyxを出た。
外は完全に日が登り朝を迎えている。
澄んだ空気にいつもなら気持ちよくなるところだが、何となく気が乗らないまま帰路に着いた。