月下の少女
時計の針が進む音だけが室内に響き、異様な空気感が生まれる。
そんな中、数分後にドアベルの音が響き、私は音の方に視線を向けた。
「悪い。遅くなった。公弥さん、お疲れ様です。」
「お疲れ。大蛇の件、ハルちゃんから聞いた。この街も荒れるな。頑張れよ瑞希。」
「はい、ありがとうございます。春陽と少し話があって、場所借りてもいいですか?」
「あぁ、大丈夫だ。ハルちゃんに俺にもその話を聞いて欲しいって言われてさ、俺も参加するけどいいか?」
「春陽が望むなら俺は大丈夫です。」
2人の中で話が完結し、瑞希さんもマスターの近くに腰掛けた。
誰にも話したことなんかない。
家族は最初から知ってたし、他に話すような友達も知り合いもいなかった。
上手くは伝えられないかもしれない。
でも、できるだけ、わかりやすいように意識しながら私は話し始めた。
「関東連合創立日のとき、マスターが私を途中で連れ出してくれたのは覚えてますか?」
「うん。もちろん。」
「あの時、私は夜しか生きられないって言いました。だけど、正しく言えば、私は太陽の元では生きていけない体なんです。だから、日の出前に陽の届かないところに行く必要がありました。」
「太陽?」
「はい。私は、色素性乾皮症、XPっていう病気なんです。」
日光によって引き起こされる遺伝子の傷を修復する機能に障害があり、遺伝子の傷が修復されないまま残ってしまう遺伝性の病気らしい。
色んな本で最初は調べたけど、私も遺伝子とかそんな細胞レベルの話なんて分からない。
「XP…。それはどういう病気?」
「簡単に言えば、日光に当たると死ぬ病気です。
紫外線を浴びて傷ついた細胞を治す機能が備わって産まれてくるのが普通なんですけど、私にはそれがなかった。
生まれた時から欠陥品だったんです。紫外線を浴びれば浴びるだけ私の細胞は壊れていく。
だから、夜しか生きれないって訳です。」
「それで、夜は私の時間ってわけか。」
一人ポツリと瑞希さんが呟いた。