月下の少女
私は一直線に扉に向かい、ドアノブに手をかけた瞬間、逆の手を誰かに引かれて振り返った。
「どこ行くの?」
「マスター…。」
「今何時かわかってる?」
「はい…でも行かな「昼はあいつらの時間だよ。」
「でも!」
「関東連合はヤワじゃない。瑞希は、約束は必ず守る男だよ。」
“昼間は俺が街を守ってやる”
瑞希さんは確かにそう言った。
昼間は瑞希さんが、夜は私が…。
そうだよね…。
今私が飛び出して行ったところで何も変わらない。
「大丈夫。あいつらを信じよう。」
そっか、私、信じきれてなかったんだ…。
あんなに頼もしい人を信じないなんて、私、どうかしてる…。
「はい。すみません。なんか、居てもたってもいられなくなってしまって…。」
「瑞希から言われたんだよ。」
「え…?」
瑞希さんから?
「春陽は何かあったら絶対無茶するから、それを止めてくれってね。案の定、太陽の下に出ていこうとするなんて。俺もここまでハルちゃんが無鉄砲だとは思ってなかったよ。」
「瑞希さんにはなんでもお見通しですね。」
私は少しだけ笑って見せて、強ばっていた体の力を少し抜いた。
「あいつは、一途なヤツだからね。ハルちゃんのことは大事に想ってると思うよ。」
大事に?
それってどういうこと?
私は一人頭の中にクエッションマークを浮かべながら目の前でニヤニヤ笑っているマスターの顔を凝視した。
「そんな怖い顔で見ないでよ。それよりもハルちゃんは夜に備えてしっかり休むこと。そして、夜になったらあいつら守ってやって。」
「はい。マスター、ありがとうございます。」
私はさっき駆け上がった階段をゆっくり降り、再び自分の部屋に戻った。
あと1時間で日が沈む…。
それまで、持ちこたえて…。