伝えられない想い


数日後


授業中、静まり返った教室に携帯の着信音が鳴り響いた。


「おい、こら誰だ。電源切っとけ」


なんの躊躇いもなく、堂々と電話に出たのは洸。勿論、クラス中の視線が痛い程に集まる。


「…何」
「こら、神野」


先生の注意を受けながらも、無視して話し続ける洸に


「…バカじゃないの」


ぼそっと呟いた時、洸に睨まれたことは気にしないでおくことにした。


「は?いや、今とか無理だって。俺今授業中だし」


じゃあ、まず電話に出るなよ。思わず突っ込みたくなるこいつの応答に、自然と溜め息が出る。


「…だからさあ。ああもう、分かったって。今からそっち行くから」


渋々そう言って電話を終わらせると、机の隣に掛けてある薄っぺらい鞄を手に取った。


「せんせい、急用が出来たので帰ります!」
「急用ってなんだよ」
「ほらー、急用は急用だよ!」


それだけ言って、逃げるかのように奴は急いで教室を出て行った。


「…女だな」


隣の席の健太が、そう呟いた。


「だろうね」


私も、呆れたように返した。


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