伝えられない想い
葉月が金平と付き合い出してからというもの、葉月が俺の部屋に遊びにくる回数は、めっきり減った。
そりゃそうか。付き合ってるんだもんな。
あー。なんか、…むかつく。
「ひま…」
暇潰しにでも、と最近借りたAVを付けて一人でボーッと見ていた。そしたら急に部屋の扉が開いて。
「洸、」
扉の向こうに立っている葉月の姿を見つけ、俺は焦ってテレビの電源を落とす。
「お、わ!ちょ、葉月!入ってくる時はノックしろっていつも言ってんじゃんかよ」
「………。」
「葉月?」
あれ。なにも言ってこねぇ…。いつもならなんだかんだ、色々言われるはずなのに。そうやって、いつものパターンを色々と考えていたら。
「…こう」
「え、なに」
なんとなく慌てて立ち上がった。…あ、やべ。その涙目プラス上目遣い。身長差のせいか、自然と上目遣いになる葉月に思わずドキッとした。さらに両手で腰に手を回され、抱きつくようにされた瞬間には、もう意識せずにはいられない。
「ちょ、葉月?」
「…洸、抱いて欲しい」
「はっ?!」
今にも泣きそうな声で、そう呟くから。想像もしなかった発言に、思わず叫んでしまった。
「どうしたんだよ、急に」
「いきなり変なこと頼んでごめん…。だけど、こんなこと。洸にしか頼めなくて…っ。ねぇ、お願い」
「ちょっ、ちょっと待てって!」
徐々に迫って来て、今にも押し倒されそうになるこの勢いを、必死でどうにかしようとした。
「なあ、なにがあったんだよ。言ってみ?」
「…っ、諒大が…」
「…りょうた?」
名前を聞いた途端、眉間に皺が寄った。
「処女は…っ、面倒だから嫌だって」
「…は」
何あいつ、そんなこと言ったのかよ。
「私、はじめてで…もう、どうしたらいいのかなんてわかんなくて。洸、こういうの馴れてるでしょ?わたし、洸なら平気だから…」
「…平気とかさ、言うなよ」
こっちは全然平気じゃねぇっつの。もう…むり。葉月をベッドに押し倒した。なんか、もう。そこまで言うんだったらマジで襲ってやりたくなったんだ。
…だけど、俺の下で小さく震えてる葉月の姿なんて見てるこっちがつれぇんだよ。なあ、その涙は一体誰を想って流してるの?
「………っ、」
「こう…?」
顔を上げた葉月の顔を、まともに見れなかった。
「わり、やっぱさ。…俺、無理だわ」
「…え?」
「なんか、こう。おまえじゃあ何も感じねぇ。萎える」
嗚呼、今の自分は相当冷たい目をしているんだろうか。
それだけ言って、ベッドから離れると、葉月は即座に立ち上がって、何も言わずに走って部屋から出て行ってしまった。