だから、さよならなんだ。
第2章 〜夏〜 私達は1人じゃいられない
ー少年ー
うるさいな。
なんて、風情のかけらも無いことを思いながら、全身全霊で鳴いている蝉を距離20センチの距離で眺めていた。
いつものベランダ。8月になって、すっかり夏本番。多くの人にとっては、温度湿度ともに地獄の気候になっているはずだ。
隣の部屋から扉が開く音。同時に、蝉が勢いよく飛び立った。おしっこのお土産を残して。
「暑いね」
彼女は眩しそうに空を見上げる。同じようにギラギラと存在を主張する太陽を見上げても、目を細めることもなく平然としている僕に彼女は驚いていた。
「今日はいないの?」
それだけで、彼女の母親の不在を確認する質問だとわかったようで、ただ「うん」とだけ彼女は頷いた。
しばらく無言だった。語ることは無くても、2人でいるこの時間が僕の全てだった。
彼女と会えたのは三日振りだったけど、それが永遠のようにも感じられた。もちろん、彼女には言わない。ただの相談相手でしかない僕にそんな思いを向けられてるなんて知ったら、彼女は怖がるだろう。それだけは……耐えられない。
最近になって気づいたことがある。
僕は彼女の不幸を利用しているのではないか。
もちろんそんな自覚はない。でも、彼女の境遇のおかげでこうして出会い、今でも彼女は僕に話しかけてくれるのだ。もし、彼女の環境が改善されたらどうなるだろう。
視線だけを彼女に向けてみる。彼女は無表情で遠くを見ていた。その先には暑さに負けず、所狭しと走り回っている子供達の姿があった。それは僕達が手に入れられなかった、世間一般の子供達の姿でもあった。
今、彼女はどんなことを思っているのだろう。悲哀か、羨望か、それとも、もうそういう感情も無くなっているのだろうか。僕みたいに。
僕は彼女に寄り添ってるつもりでいたけど、本当は僕が寄り添っているのかもしれない。依存といってもいい。
これは、よくない。はっきりと理論的には説明できないけど、僕が彼女に依存してしまうのはよくないことだけはわかる。
彼女の顔が動いて、そして目が合う。
無表情だった顔が、わずかに微笑みへと変わる。
依存してはまずいとわかっているのに、それでもどうしてもこの環境は変えたくない。
彼女を、手放したくない。
僕のどうしようもないわがままは、今日も内側からジリジリと僕を焦がしていた。
まるで、僕らを照らす真夏の太陽のように。
なんて、風情のかけらも無いことを思いながら、全身全霊で鳴いている蝉を距離20センチの距離で眺めていた。
いつものベランダ。8月になって、すっかり夏本番。多くの人にとっては、温度湿度ともに地獄の気候になっているはずだ。
隣の部屋から扉が開く音。同時に、蝉が勢いよく飛び立った。おしっこのお土産を残して。
「暑いね」
彼女は眩しそうに空を見上げる。同じようにギラギラと存在を主張する太陽を見上げても、目を細めることもなく平然としている僕に彼女は驚いていた。
「今日はいないの?」
それだけで、彼女の母親の不在を確認する質問だとわかったようで、ただ「うん」とだけ彼女は頷いた。
しばらく無言だった。語ることは無くても、2人でいるこの時間が僕の全てだった。
彼女と会えたのは三日振りだったけど、それが永遠のようにも感じられた。もちろん、彼女には言わない。ただの相談相手でしかない僕にそんな思いを向けられてるなんて知ったら、彼女は怖がるだろう。それだけは……耐えられない。
最近になって気づいたことがある。
僕は彼女の不幸を利用しているのではないか。
もちろんそんな自覚はない。でも、彼女の境遇のおかげでこうして出会い、今でも彼女は僕に話しかけてくれるのだ。もし、彼女の環境が改善されたらどうなるだろう。
視線だけを彼女に向けてみる。彼女は無表情で遠くを見ていた。その先には暑さに負けず、所狭しと走り回っている子供達の姿があった。それは僕達が手に入れられなかった、世間一般の子供達の姿でもあった。
今、彼女はどんなことを思っているのだろう。悲哀か、羨望か、それとも、もうそういう感情も無くなっているのだろうか。僕みたいに。
僕は彼女に寄り添ってるつもりでいたけど、本当は僕が寄り添っているのかもしれない。依存といってもいい。
これは、よくない。はっきりと理論的には説明できないけど、僕が彼女に依存してしまうのはよくないことだけはわかる。
彼女の顔が動いて、そして目が合う。
無表情だった顔が、わずかに微笑みへと変わる。
依存してはまずいとわかっているのに、それでもどうしてもこの環境は変えたくない。
彼女を、手放したくない。
僕のどうしようもないわがままは、今日も内側からジリジリと僕を焦がしていた。
まるで、僕らを照らす真夏の太陽のように。