聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったので、異世界でふわふわパンを焼こうと思います。
「これは……」
「なんでこんな場所に」
皆は口を押さえていて吸い込んではいけないものらしい。それはギルバード様も同じみたいだ。
これ、確か……どこかで。そうだ教養の授業で、瘴気によって汚された人が周りを巻き込んで死者を数十人出したとか……だけどそれを数十人だけにして救ったのは――……
「――聖女の、力」
聖女の力を使うのは怖いし、本当にその力が使えるのか分からない。だけど、この場にいてもなんの影響もない。ってことは私が聖女だからだと思う。
来たばかりの頃の閉じこもっていたあの頃とは違う。今は大切な人がいる……なら、やることは一つだ。
私は両手を組む。読んだ記述通り目を瞑ると髪がふわふわと舞い出し、光が現れた。
「聖女メル・フタバ・セダールントの名において、この空気を浄化せよ――」
――お願い、みんなを助けて。
――どうか傷つく人が、一人もいませんように……。
「……っ……」
目を開けると、さっきまでの真っ黒なモヤは全く無くなっていて周りの人も、ウィリアム王子も無事みたいだ。よかった……。
安心したのか、力が枯れたのか分からないが自分でも倒れると思った時には私は意識が遠のいていた。ただ、ギルバード様の私を呼ぶ声だけは私の耳に響いていた。