恋に異例はつきもので
 デスクの片付けが終わり、椅子に腰を下ろしたとたん、目の前にドサっとブランディング関連の本が置かれた。
「まず、こいつを読破すること。期限はおれが出張から戻るまで」
「は、はい」
「ブランディングとは何か、頭に叩き込め」

 それだけ指示すると、部長はせかせかと出かけていった。

 はー。
 そばに来られるだけで緊張する。

 苦手が高じて、身体が反応しちゃうみたい。

 朝からずっと緊張しっぱなしで頭が痛い。

 首の後ろを揉んでいると、米川さんがコーヒーを淹れて持ってきてくれた。

「はい、どうぞ」
「すみません。気がきかなくて。わたしのほうが淹れなきゃいけないのに」

 米川さんはわたしのほうに椅子を寄せ、コーヒーを一口啜った。

「この部はそういうの、一切なし。飲みたい人間が勝手に淹れる。来客のお茶出しも同じ。手の空いてる人間がするんだ」
< 18 / 110 >

この作品をシェア

pagetop