恋に異例はつきもので
 依頼の詳細は掴めたので、ひと月後に素案を持参すると約束を交わして、わたしたちは席を立った。

「では失礼します」
 会社の玄関口まで見送ってくれた宗一郎さんに挨拶をして、そのまま立ち去ろうとしたとき、
「かり、あ、いや、辻本さん」と声をかけられた。

 わたしは振り返った。
「はい?」

「いや……えーと」

 とっさに声をかけてしまったという感じで、宗一郎さんはなんと言えばいいか考えあぐねていた。

 この状況にいち早く反応したのは部長だった。

「先に行っている」

 そう言うと、宗一郎さんに会釈して、ポケットに片手をつっこみ、駅に向かって歩きだした。
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