恋に異例はつきもので
 バシッ!
 平手打ちの派手な音が響いたのだ。

 人々の視線は、一斉にその音のほうに向かった。

 そこにいたのは、黒のタイトワンピースにトレンチコートを羽おった長髪のモデル級美女。
 ありったけの力を込めて、連れの男の頬を打つと、かつかつというヒールの音とともに去っていった。

 残された男はまったくうろたえる様子もなく、自嘲(じちょう)気味に口元を歪め、頬を軽く一撫ですると、改札口に向かうために(きびす)を返した。
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