恋に異例はつきもので
 懐かしさに引きずられそうになる自分をとどめ、わたしは言った。

「あの、部長を待たせているから、これで」
「ああ、そうだね。引き留めてごめん。じゃあ、また。次回の打ち合わせ楽しみにしてるから」
「うん。気に入ってもらえる提案ができるように頑張るね」

 わたしは力こぶを作って、ちょっとおどけた。
 宗一郎さんはそんなわたしに笑顔で答えてくれた。

 やっぱり、一回り器が大きくなったような気がするな、宗一郎さん。
 さっきの打ち合わせの内容から考えると、この仕事はかなりの長丁場になるはず。

 気を遣ってくれただけかも知れないけど、とりあえず、お互いわだかまりなく仕事が出来そうで良かった。
 昨日までは、最悪、担当を降りる事態があるかも、と思っていたから。

 そして、今回、宗一郎さんの会社を生まれ変えらせる手助けができれば……
 あのとき、ほんの少しだけでも、彼を傷つけた償いができるかもしれない。

 よし、頑張らなきゃ。宗一郎さんのためにも。
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