恋に異例はつきもので
 ふたたび煙草を唇に(くわ)え、皮肉な調子で言った。

「それで、あらためて口説かれてたってわけか。再会の口づけでも交わしてたのか。色男だしな、あの社長」

 はあ? 何、それ。
 カチンときた。
「そんなこと言われる筋合いはないと思いますが」
「ああ、そりゃそうだな。お前が誰に口説かれようが、俺には関係ない」

 煙草を足でもみ消すと、部長は改札に向かおうと一歩踏みだした。

 そして顔だけこっちに向けて、捨て台詞のように吐き捨てた。
「ただし、仕事に支障をきたすなよ。女は男に惚れると仕事そっちのけになるから」

 ムカっときた。
 もう、何なの。

 やっぱ、こいつ、ハラハラ親父以外の何者でもない!

 なにかにつけ「女は、女は」って。
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