恋に異例はつきもので
 その夜。
 わたしと米川さんは連れ立って、会社の近所の小料理屋に出向いた。
 暖簾をくぐると愛想のいいおかみさんに迎えられ、二階の小座敷にどうぞと促された。

 ふすまを開けると、もう部長は来ていた。
 出先から直接来たらしい。
「遅くなりました」
「ほら、辻本さん、奥に入って」
米川さんに促され、わたしは部長の向かいに座ることに……
 うっ、なかなか目のやり場に困る位置。

「ここは初めて?」
 隣に座った米川さんが手を拭きながら訊いてきた。
「はい、第3営業は人数多いんで、飲み会も広い店じゃないと無理だったので」
「辻本さんは飲めるほう?」
「えーと、嗜む程度です」
「ああ、じゃあ、結構いける口だ」
「なんでそうなるんですか」
「『飲めない』っていうのがコップ一杯、『嗜む』ならまあ、ビール1、2本は軽いっていうのが、経験上、弾き出した数字」
「はあ、そんなもんですかね」
「なんてね。でも、だいたいみんな飲めるのにそういうからさ」

 ふたりでそんな他愛ない話をしていても、部長は話に加わらず、ひとり黙って冷酒のグラスを傾けている。
 うーん、やっぱ、怒ってるんじゃ……
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