恋に異例はつきもので
 米川さんは、今度は部長に話しかけた。
「部長、そんな怖い顔してるから、辻本さんが怯えちゃうんですよ」
 グラスを手にしたまま、部長はちらっとこっちに視線を投げる。

 あっ、初めてこっち見た。

「こいつが怯えるような玉か」

 すると米川さんが部長を見て、にやっと笑った。
「そうやって、すぐ憎まれ口叩くから誤解されちゃうんですよ、部長。ほんと、いじめっ子体質なんだから」
「なんだ、そりゃ」
「ほら、よくいるでしょう? お気に入りの女子ほどいじめちゃう小学生男子」

 お気に入りの子?
 わたしはあやうくビールを吹きそうになる。
「そ、そんなことないと思いますけど」
 
 部長はもう一度、ちらっとわたしに目をむけ、すぐに視線をグラスに戻した。
「こいつが迷惑がるだけだろう。おれなんかに好かれたら」
 そう、冗談とも本気ともつかない口調でぼそっとつぶやいた。
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