恋に異例はつきもので
 わたしはベッドを出るとうーんと大きく伸びをした。
 顔を洗って、なんとなくテレビをつけて朝食のシリアルを食べていると、スマホに着信が。

 えっ? 部長から? な、何だろ?
「はい、辻本です」

 スピーカーごしの部長の声は珍しく慌てているように聴こえる。
「休みの日にすまん。もし予定がなければ、今日、ちょっと付き合ってほしいんだが……」

 ひえっ? ど、どういうこと?
 詳しく話を聞こうとしたけど、雑音が多くてよく聞こえない。

「えっ、どこに行くって?」
「『キンダーラント』に……」

 ああ、最近話題になってる、海外のおもちゃメーカーがだした「遊べる店」……
 でも、そんな子供だらけの場所に部長とふたりで?
 ものすごく場違いな感じもするけど。

「『ヤマモト』の仕事に……役に立つだ……う」

 ああ、そういうことね。
 まあ、いいか。どうせ予定もないし。
 宗一郎さんと別れて以来、わたしはずっと彼氏なし状態。
 かっこつけて言えば、仕事が恋人、実際はただの非モテ女子。

 わたしは「いいですよ」と返事をして、場所と時間を確認して電話を切った。
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