恋に異例はつきもので
 自分の家に向かう電車の乗り口を目指しながら、なんとなく頬の筋肉が緩んでくるのを止められなかった。

 でも、本当に今日は来てよかった。
 部長があんなに子供に好かれるなんて思ってもみなかったし。

 それに……
 彰ちゃんと呼ばれたときの、あの困り切った顔。
 今、思い出しても笑いがこみあげてくる。
 明日、出社したとき、どんな顔で挨拶してやろうかな?

 さて、子供たちの笑顔があざやかに記憶に残っているうちに、『ヤマモト』のアイデアをまとめなきゃ。

「よっしゃー」

 込み合った電車の中でさすがに大声は出せないので、わたしは心のなかで気合を入れた。
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