恋に異例はつきもので
「おっ」
 部長は大きな音をさせて椅子から立ちあがると、とっさにわたしを抱き留めた。

 身長差が大きいので、わたしは彼の胸に顔をうずめる恰好になった。

「す、すみません」
 あわてて身体を起こそうとすると、彼はわたしの頭の後ろに手を回してきた。

 えっ?

「根の詰め過ぎだ。立ちくらみだろう。落ち着くまでしばらくこうしててやる」
 穏やかな声でそう言うと、部長は回した手に少し力を込めた。
「はい……」

 どうしよう。
 逆に落ち着けないんだけど。
 自分でも鼓動が高まっていくのがわかる。
 心臓の音、伝わっちゃうんじゃないかな。
 早く離れないとどうかなってしまいそう。

 でも……
 このままずっとこうしていたい。
 そんな気持ちが沸き上がってきた。

 もし、彼の鼓動もわたしのように高まっていたら。
 わたしは躊躇(ちゅうちょ)なく彼の背に腕を回していたかもしれない。
< 82 / 110 >

この作品をシェア

pagetop