恋に異例はつきもので
 23階の総務部で用事を済ませたあと、エレベーターホールに向かう途中、パーテーションで仕切られたレストスペースの一画から沙織先輩の話し声が聞こえた。

 先輩がリーダーを務めているプロジェクトの進行がかなりずれ込んでいるという噂が会社中に広まっていて、わたしの部内にも伝わってきていた。

 ちょうど良かった。
 だいぶご無沙汰していたから、挨拶だけでもしておこう。

 そう思って近づこうとしたとき、その奥の窓に映り込んでいる人物に気づいて、わたしの足は止まった。
「もう……自信なくしちゃった」
 そう弱音を吐き、先輩が頭をそっと肩に預けている相手。

 部長……
 
 吐気を覚えるほど、胸が苦しくなった。
 
 ふたりに気づかれる前に、わたしは急いでその場を後にした。
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