恋に異例はつきもので
「ごちそうさまでした」
「ちょっと夜景を眺めない?」
「うん」

 その階のエレベーターホールの窓の前にはソファーが置かれていて、外が眺められるようになっていた。

 丸の内界隈のビルの明かりやライトアップされた街路樹、その奥の、そこだけぽっかり穴が空いたような皇居の暗い空間が目の前に広がっている。

「わー、きれい」
 となりに座った宗一郎さんは「あのさ、花梨」と呼びかけてきた。

 彼に視線を移すと、真面目な表情でわたしを見つめている。

「実はさ、あのとき花梨に渡せなかった指輪、まだ持ってるんだ」

「えっ?」

「もちろん、あれから他の人とも付き合ったし。ずっと君だけを思い続けてたってわけじゃないけど。でも、花梨以上に好きだと思う人にも出会わないんだよね。残念ながら」
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