君がいないと
「ビアンカさん?」

僕は考えるよりも先に行動していた。椅子から立ち上がり、ドアを開けて玄関まで走る。長い廊下がどこかもどかしい。

玄関に行けば、栗色の髪を揺らして所々破れたスーツを着たビアンカさんが靴を脱いでいるところだった。ビアンカさんにやっと会えたことが嬉しくて、僕は彼女を抱き締めていた。

「おかえりなさい、ビアンカさん」

恋人でもないただの同居人に抱き締められているのに、ビアンカさんは「離せ」と言わなかった。僕の方を向いて、優しく微笑む。

「ただいま、ウィリアム」

その顔が、その声が、その温もりが、全てが愛おしい。想いが溢れてしまいそうだ。心にあった憂鬱が、寂しさが、一気に溶けていく。

「お腹空いちゃったな」

ビアンカさんがそう言い、音の鳴るお腹を押さえる。僕はすぐに「ちょっと失敗しちゃいましたけど、一応ご飯ありますよ」と言う。すると、ビアンカさんが嬉しそうに笑うから作ってよかったと思ってしまうんだ。

失敗しちゃったのに、ビアンカさんは「おいしい」って言ってパスタを飲み込んでいく。

二人で食事を食べるこの時間が、僕にとって一番の幸せなんだ。
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