町娘は王子様に恋をする

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 羽柴先輩の帰社だ、と主にお土産に対しての期待が高まるなか、お土産以上の爆弾がもたらされたのは、月の後半。今月の売り上げをかけて忙しさが増す頃だった。

「二週間お世話になります、#高橋__たかはし__##千景__ちかげ__#です。よろしくお願いします」

 羽柴先輩が帰社と共に連れて来たのは、本社の部長補佐の人だという。特にどこに入る、というわけではなく社内をまんべんなく見回るということで経験することが目的の様だ。
 きれいで整った顔立ちに、いかにも仕事ができますといった風貌。部長補佐まで上り詰めているということはそういうことなのだろうと役職からも納得ものであるが、それにしてもなぜにこの時期なのかは各部署でも謎であるとお昼の話題になっていた。
 夏は明けても暑さは続く秋。台風も懲りずに次々にやってくる季節だ。人為的な台風ももたらされるのか、と少々気だるさを見せる社員もいたが仕事は仕事、処理しなければ定時にあがれない。
 お上の考えることは解りません、ということもあり紹介もそこそこに朝礼が終わる。
 数日置きに高橋さんは各部署を回るということだ。効率を高められる要素を見つけてあげていこう、ということらしい。


 高橋さんが来てからもう四日経つ。あれから巡る部署で色々な物事が洗いだされているという話でもちきりだ。これではお互いのやり方をみせる、というよりは一方的に効率改善を外部の人間が促すために来た、といってもらえた方がまだ良かった。

「うさぎ、大丈夫?」
「うぇ……?」

 昼食時、お弁当をもくもくと食べていると、今日は少し出遅れたという加宮さんが向かいの席に座った。周りはいつも通り盛況だが、そんな中で「あー、疲れた」という加宮さんの呟きは私の耳にしっかりと届いた。
 いつもの保冷剤を入れた小さな鞄ではなくトレーをテーブルに置いた。今日は食堂の定食のようだ。からっからにあがったから揚げと茄子のお味噌汁の香りがふわりと鼻をくすぐる。他人の食べ物だから、という点もあるが単純においしそうだ。

「あの人来てから、仕事増えてんでしょ?」
「あー……、書類の整理がね。まあ、普段からペーパーレスを言うのに紙料の棚が目についたんじゃないかな。そこは仕方がないけど……定時には帰ってるよ」

 青やら灰色の分厚いファイルが営業課の棚には並んでいる。別途資料室もあるものだから、高橋さんがみつけたらあそこも倉庫になるんじゃないだろうか。
 ペーパーレス、資源を大切に、とは言うがデジタルデータにしたところで会議に紙料を要求する人間はいる。むしろそちらに一言二言申してほしいわけだけれど、上を目指す人間がそんなことをする訳もないか、とその辺りは呆れている。

「あと、羽柴先輩ずっと掴まってるじゃない?」
「先輩が掴まるのは私に関係がないような? けどまあそれは、この間出張に行った時に、先輩を間に入れようって話しになったって聞いたなあ」
「え、先輩と時間取れてるの」

 加宮さんが意外そうにから揚げを取った箸を口の前で止めた。社内で羽柴先輩と会話することがそんなにも驚かれることだろうか。
 周りはガヤガヤとしていて、私たちの会話もそれに紛れている。

「時間というか、小袋のチョコとかクッキーをお茶と出すついでというか」

 別にこれは先輩を贔屓している訳ではなく、昼食前の間食としてだったり残業する人へのエールだったりで、お土産だったり単に小腹が減った時だったりにそれぞれが持ってきているものを給湯室に置いている関係でそれを回しているというだけなのだ。
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