コンチェルトⅡ ~沙織の章

樹が 幼稚園に 通い始めてまもなく
 

「ねえ、紀之さん。私達 松濤に 同居させてもらえないかな。」

沙織は紀之に言った。
 
「えっ。沙織、いいの?」

紀之は 驚いた顔で 沙織を見る。
 

「もちろん。今も、昼間は ほとんど 松濤にいるでしょう。私、お母様に お世話になるばかりで。一緒に暮らした方が お互いに楽だもの。」



樹が 習い事の間 翔は お母様が 預かってくれる。
 

「沙織、ありがとう。みんな喜ぶよ。早めに みんなに話そうね。」

紀之は 温かい目で 沙織を見つめてくれた。
 

「ううん。こちらこそ。賑やかになって 楽しいだろうな。」

沙織は 笑顔で言う。



沙織は お父様とお母様が 大好きだった。


二人は 小さなことでも 沙織の意志を尊重し 力を貸してくれる。

穏やかで 温かいご両親だから。
 


「でもさ、同居したら こういう事 できなくなるよ。」

紀之は ソファを移動して 沙織の隣に座る。

そして 沙織の肩を 抱き寄せた。
 

「いつも そんなこと しないくせに。智之さんじゃないのよ。」

沙織は 素直に 紀之に寄り添う。

そして 紀之を見上げた。
 

「そりゃそうだ。」

紀之は 優しい笑顔で 強く 沙織を抱きしめる。


言葉では 言わないけれど 紀之が 喜んでいることに 沙織は気付く。
 


豊かで 愛に満ちた生活。

紀之に愛され。


お父様とお母様にも 

沙織は 大切にしてもらって。


裕福だから 幸せが続くのか。


幸せを 大切に思うから より裕福になるのか。
 
 








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