コンチェルトⅡ ~沙織の章

翔が 年長になって 探しはじめた土地は なかなか 見つからなかった。
 

「この辺りは 滅多に 売物件が 出ないらしいよ。」

知り合いの 不動産業者に 相談したお父様が 紀之達に言う。


ごく稀に 売りに出ている 土地があっても 広さや環境など 智之達の 家を建てるには 不向きだった。
 


秋になると 翔の受験で 忙しくなる。


翔も 何校か受験をする予定だった。
 

「先生は 大丈夫だろうって。カッ君は タッ君よりも 落ち着いているから。」


沙織の心は 複雑だった。


二度目の受験で 勝手がわかる分 プレッシャーも強い。


翔も 絶対に 樹と同じ小学校に 合格させてあげたい。
 

元来 大らかで 楽天家の沙織が 受験が近付くと 不安に 押しつぶされそうになった。
 


「沙織らしくないなあ。縁があれば 合格するし 駄目な時は 翔には 向かない時だよ。」

紀之は 沙織に言う。
 

「そうよね。駄目でも すべてが 終わるわけじゃないものね。私 気負い過ぎていたみたい。」

沙織は 憑き物が落ちたように 気持ちが楽になった。


「そうだよ。翔にとって 一番良い結果が出るよ。」

紀之は 優しく 沙織の肩を叩いた。
 

沙織の努力を 紀之はわかっている。


そう思うだけで 沙織は救われていた。

涙汲んで 紀之を見つめる沙織に 紀之は 笑顔で頷く。
 


沙織の気持ちが 変わると 翔も 伸び伸びと 本来の姿になった。


繊細な翔は 沙織の心を反映して 少し神経質になっていたから。
 


子供らしい笑顔を 取り戻した翔は 余裕を持って 受験に臨んだ。


そして 受験した学校すべてに 合格した。
 








< 39 / 95 >

この作品をシェア

pagetop