コンチェルトⅡ ~沙織の章

「だから言っただろう。翔なら 絶対 大丈夫だって お父さんはわかっていたよ。」

合格を聞いた紀之は 嬉しそうに 翔を抱き上げる。


二人の 笑い声を聞きながら 沙織は そっと背を向けて 涙を拭う。


そんな沙織の肩を お母様が そっと包んでくれた。
 

「お母様。」

と言って 沙織は 本格的に泣いてしまう。


普段は 明るくて 気丈な沙織の涙は 責任感の重さだと お母様は知っていた。


沙織が落ち着くまで お母様は そっと沙織の肩を 抱いていてくれた。




翔の入学式 紀之と二人で 参列した沙織。


保護者席に 並んで座って そっと 紀之の横顔を見る。

その時 沙織は 3年前の 樹の入学式と 違う紀之を感じた。
 

紀之から滲む 空気感は お父様のような 経営者のオーラに なっていた。


自信、包容力、観察力。

穏やかな貫禄さえ 感じられる紀之。


沙織は 驚きと喜びで そっと 横顔を見つめていた。
 

「どうしたの?」

視線を感じたのか 紀之は 小声で聞く。

沙織は微笑んで、
 

「ううん。紀之さん カッコいいなと思って。」

と耳元で言ってみる。
 

「チェ。からかったな。」

紀之は 少し照れた 嬉しそうな顔で 沙織を睨む。


優しい笑顔が交差して 沙織も照れてしまう。
 

結婚して まもなく10年。

30代後半になった紀之。


子供達だけでなく 紀之も成長している。


お父様の近くで 会社を 担う責任を 感じながら。
 


沙織の中に 達成感が 満ちてくる。


健全に 成長している子供達。

紀之は 経営者の顔になってきている。


沙織の 小さな努力に 家族は 大きく応えてくれる。
 


静かな幸せが 沙織を包んで 涙汲みそうになった時

大きな拍手とともに 子供達が 入場してきた。
 
 












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