コンチェルトⅡ ~沙織の章
早速、お父様は 仲介業者に 購入を伝えた。
その場で 手付の小切手を切り 今後の段取りを 相談している。
沙織は そっと 紀之を見つめる。
紀之は 少し照れた顔で 沙織に微笑む。
『あとは 会社の話しだよ。』
紀之の目は 沙織にそう語っていた。
そのまま みんなで お鮨を食べに行く。
時間は 少し早いけれど ゆっくり話すのに 丁度良い。
食事が 一段落すると
「智之。そろそろ 廣澤工業を 手伝ってもらえないかな。」
とお父様は 切り出した。
「何だよ。突然だな。今日は 驚かされっぱなしだよ、俺達。」
智之は 明るく苦笑する。
「俺も そろそろ 引退する年だし。紀之を 助けてやってもらいたいんだ。」
お父様の 謙虚な言葉に 麻有子は 驚いた顔で 智之を見る。
「いつか 俺で 役に立つときが来たら 廣澤工業を 手伝いたいって 思っていたから。声をかけてもらって 嬉しいよ。でも 俺で大丈夫かな。」
智之の謙虚な言葉に 沙織は 涙汲みそうになる。
「慣れるまでは 智之に 苦労をかけると思うけど。でも 智之なら大丈夫だよ。一番 信頼できるし。今 返事しなくていいから。麻有ちゃんと よく相談してくれよ。」
紀之が言う。
「私は 大丈夫です。智くんが 決めたことなら。」
麻有子は きっぱりと言いきる。
その潔さに みんなが驚く。
「麻有ちゃん、すごいわ。」
沙織が 麻有子を見つめて言うと
麻有子は 少し照れた目で 頷いた。
「今の会社も 円満に辞めたいし。少し 時間を頂戴。やるからには 力になれないと 意味がないから。ちゃんと決心するから。それまで 待ってもらえるかな。」
智之の言葉は どこまでも謙虚で。
沙織は感動していた。
二人が一緒なら 会社は もっとうまくいく。
沙織は心から思った。