コンチェルトⅡ ~沙織の章

沙織は 少し 胸が痛んだ。


紀之の家族には 素直になれるのに。

父の言葉は 素直に 受け取れない。
 

「仕方ないわ。小さい頃からの 積み重ねだから。」

そう答えながら 沙織は 少し切なくなってくる。
 

「ねえ、お母さん。たまには お父さんと 温泉にでも行ったら。」

沙織が言うと、
 
「そうね。でもお父さん 出不精だから。」

母は 少し 寂しそうに言う。


実の娘にさえも 父と母は疎まれる。

何故か 沙織は 悲しくなってきた。
 

母と話していて 沙織は 自分が 親不孝だったことに気付く。


紀之の家族は みんな素直で温かい。


沙織は 紀之の家族と過ごす 心地よさに 自分の実家を 遠ざけていた。
 

出産後も 沙織は 実家に帰らなかった。


樹を産んだ後は 母が 日中マンションに来て 家事を手伝ってくれた。

翔を産んだ時 沙織は 退院後そのまま 松濤に帰って お母様のお世話になった。
 

たった一人の 娘なのに。

母は 寂しい思いを しているだろう。


沙織は 紀之の家族に 大切にされて 幸せだけど。

自分の両親への 感謝を 忘れていた。
 

紀之は 沙織を引っ張って 実家に連れて行く。

そんな時さえも 沙織は 嫌々付いて行った。


結婚すると 娘は 自分の親が 恋しくなると言うのに。
 

父が 沙織の幸せを 喜んでいると知って 

沙織は 初めて 両親を思いやれた。


今更だけれど。

でも 気付くことが できたから。
 

たまには 両親に 旅行券でも プレゼントしよう。

意地っ張りの父も 紀之が渡せば 快く受け取るだろう。


これからは 少しだけ 素直になって 父と話そう。

時には 沙織一人でも 両親の顔を 見に行こう。


そんな風に 思いながら 沙織は 温かく苦笑していた。
 
 









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