コンチェルトⅡ ~沙織の章

智之を 廣澤工業に 呼んだことを

沙織は 智之のためだと 思っていた。


経営に携わって 紀之と同じように 豊かな生活を してもらうためだと。
 

でも お父様は 紀之のことを 一番に考えていた。


経営者の 不安と苦労を 一番 良く知っているから。


お父様は 今までずっと 一人で 会社を守ってきた。

その孤独から 紀之を守るために 

智之を呼んだのだと 沙織は気付いた。
 

長い間 会社を経営していると 良い時ばかりでは なかっただろう。


そんな時 お父様は 一人で乗り越えてきた。


今は 順調に 伸びている廣澤工業も 

いつ 苦しくなるか わからない。


そんな時 紀之の側に 智之がいて 

苦しみを 分かち合えたら どれほど心強いか わからない。
 


沙織は お父様の 深い思いやりに 胸が熱くなった。


一瞬 黙り込んだ沙織に 紀之は 心配そうな 目を向ける。
 

「紀之さん これから頑張って いっぱい 親孝行しないとね。」

沙織が 笑顔で言うと
 
「何だよ 急に。今だって 親孝行していますよ。」

紀之は 軽く 沙織を睨む。


お父様とお母様が 明るく笑って 紀之と沙織を見る。
 

「紀之は 沙織ちゃんと 結婚したことが 一番の 親孝行だったわね。」

お母様の言葉に お父様は 声を出して笑う。
 

「何だよ、沙織ばっかり。」

と膨れた顔の紀之に みんなで笑う。



この家族の笑顔が 沙織を守るから 沙織は 家族の笑顔を守る。
 
 









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