コンチェルトⅡ ~沙織の章
家に居る時の紀之は 冗談ばかり言っている。
大きな会社の 経営者であることを
全く感じせない 普通の父親だった。
でも翔は 『お父さんはすごい。』と言った。
大勢の社員を 守ることの大変さを 子供なりに理解している。
紀之の 社長就任式典で 樹と翔は 会社での紀之の姿を見た。
たくさんの祝辞や 紀之の挨拶を聞いて 二人は 何を感じたのだろう。
紀之は 子供達に 絶対 高圧的な態度をしない。
自分の地位が 社会的には どれだけ高くても。
子供達にとっては 父親でしかないから。
子供達と くっ付いて じゃれ合い 冗談を言い合う。
そんな時間は 紀之にとっても 癒しの時間だったから。
子供達は 安心して 紀之に 何でも話す。
笑って 冗談を言っていても 心の中では 紀之を尊敬している。
自分の父親を “ すごい ” と言える翔は
本当に幸せだと 沙織は思った。
「翔。医師になること お兄ちゃんには 先に 相談していたの?」
沙織は 翔に聞いた。
「うん。お兄ちゃんも 他にやりたいことがあったら 考えないといけないから。」
と翔は言った。
「お父さんはね 樹にも翔にも 無理に 会社を継がなくても いいって思っているのよ。」
翔の返事を聞いて 沙織の胸は 熱くなった。
「でもさ お兄ちゃん お父さんの会社を 継ぎたいって言ったから。それで 俺を応援してくれるって。」
沙織は 樹の優しさも 嬉しかった。
「そう。よかったわ。」
胸が熱くなって 沙織は うまく言葉が 出なかった。
「お兄ちゃんが お父さんと智くんみたいに 俺と一緒に 会社を継ぎたいって 思っていたら悪いから。」
翔の 樹に対する思いやりも 沙織の胸を 熱くする。
どうして この子達は こんなに 優しいのだろう。
沙織は 自分が子供の頃 樹や翔のような 思いやりは無かったと思った。
「翔、優しいね。良いお医者様になるよ きっと。」
沙織が 優しく言うと、
「なれればね。」
と翔は はにかんだ笑顔で言った。