花よ咲け
―数日後―

「紫吹さん、おはよう。」
「うん…おはよう。」

「最近、毎日すぐ帰っちゃうからお話しできなくて寂しかったです。」


彼と出会った日から私は毎日バイトをしている。服を脱いで絵を描かれるだけなのに何もかも忘れられるような気がする大切な時間。


「陽花、最近夜遅くに帰ってるっておばさんから聞いたけど大丈夫か?」
「別にいいでしょ。葵には関係ないんだから。」

「陽花……?」
「葵は景浦さんのことだけ考えていればいいんじゃないの?私はもう葵がいなくても大丈夫だから。」


早く彼に会いたい。早く学校なんか終わってほしい。私の頭の中には彼の存在しかなかった。



「紫吹、ちょっといいか?」

「私……?別にいいけど。」


もみじに呼ばれ生活指導室へと連れていかれる。一体私に何の用が……。


「最近、家に帰るのが遅いとお母さんから電話が来た。放課後何をしているんだ?」

「別にもみじには関係ないでしょ。」
「俺はお前の担任だ。関係ある。」

「別に…バイトしているだけ。」

「バイト……職種は?」
「モデルのバイト。」
「会社の名前は?」

「会社なんかないよ。公園で声かけられただけ。」
「内容は?」


裸婦画と言いかけそうになった時、ハッと我に返った。きっと服を脱いで裸を描かせているなんて言ったら辞めさせられる。そんなことされたら私の居場所がなくなってしまう。


「秘密。別にいいでしょ、私がどんなことしてても。」

「言えないようなことなのか…?」
「別に……話はそれだけ?」


「そんなバイト今すぐやめろ。親御さんには内緒にしておいてやるから。」
「辞めない。」
「紫吹、どうしたんだ!?お前はそんな我がまま言うような奴じゃないだろ。」


「私がやりたくてやってるの。放っておいて。」
「おい、待て。」


もみじの手を振り切り生徒指導室を出る。




これ以上私の居場所を奪わないでほしかった。心配なんていらない。自分が普通じゃないことも分かってる。




でも…私にはあそこしかもう居場所がない。
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