花よ咲け
「はい、今日のバイト代ね。」
「ありがとう……ございます。」


いつものように絵を描く前にお金を受け取る。今日はいつもより少し多いように感じた。


「今日……いつもより多いんですね。」
「うん。嫌だった…?」

「いや、こんなに多く貰っていいのかなって。」
「お金のことなんか気にしないで。今日が最後なんだから。」

「え……?」

「僕ね、会社の関係で海外に行くことになったんだ。2週間後には日本を出発する。今まで、僕の趣味に付き合ってくれてありがとうね。」



それって……もう会えなくなっちゃうって事……?

「嫌です……行かないでください。」
「僕もできればそうしたいんだけどね……会社の命令には逆らえないから。」

「いつ……戻ってくるんですか…?」
「早くても3年かな。」

3年。その言葉が胸の中に重く響いた。そんな長い間会えなくなるなんて悲しい。

「私…離れたくないです。私……好きなんです。貴方のことが。」

「ありがとう……でも、ごめんね。僕は君の気持ちには応えられない。僕は社会人で君は高校生だ。お互いその身分に相応しい恋をしたほうがいい。」


そんなの分かっているよ。でも……何でもいいから繋がりが欲しかった。縋れるものが欲しかった。

「本当にダメですか…?」
「うん……ごめんね。」


「そうですか……じゃあ今日が最後なら絵を描くんじゃなくて…私を抱いてもらえませんか……?思い出だけでいいんです。貴方と会えたこと……終わりにしたくない。」


私の言葉に黙ってしまう彼。普通に考えたらこんなこと言われても困るだけ。そんなの分かっているけど止められなかった。




「……分かった。それで君の気が済むのなら賭けをしよう。」
「え……?」

「今週の日曜日に僕とデートをしよう。そこで僕が君を好きになったら君を抱く。そうじゃなかったら抱かない。」





日曜日……その日は葵たちと植物園へ行くと約束した日。



「あの……他の日じゃダメですか…?」

「ごめんね、その日しか空いていないんだ。」





今の私にとって大切なのは葵じゃない。この人といること。

「分かりました。日曜日、楽しみにしています。」




だから、嘘をついてもいいよね…?
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