花よ咲け
今日は柳さんが怖いくらい優しい。このデートの賭けの話をしていた時は相手にされていなかったことが伝わってきたけど今日は会話をすればするほど柳さんが近づいてきてくれている気がする。


でもいいことが起きるのって悪いことが起きる前兆だっていうし……。でも、優しくしてくれるってことは私のこと考えてくれているのかなと思ってしまう。



「はい、飲み物。」
「ありがとうございます……。」

「なんか難しい顔してるね。何か悩み事?」



聞いてもいいのかな…?でも、いちいちそういうこと言うのって子供っぽくてうざいかな…?



「あの……なんで…優しくしてくれるんですか…?」
「え…?」


「だって…この間私が好きって言ったとき、すごく困った顔してました。このデートだって、私に諦めさせるためだって分かってます。私のことなんて突き放して断ってもらっていいのに……なんで優しくしてくれるんですか…?」


「それは……僕が君のことを知りたいから……だと思う。」




それって期待していいって事…?



「……私ももっと知ってほしいです。私も柳さんのこと知りたいです。」

「君は本当にかわいいね。」




夢ならこのまま覚めないでほしい。このまま夢に浸っていたい。











「紫吹……?」



聞き覚えのある声に振り返るとそこにはもみじが立っていた。




「何でここにもみじが……?」
「それは俺のセリフだ。ここの植物園に行くって約束してただろう。」




行く予定だった植物園ってここのことだったの…?



「その男は誰だ?」
「この人は……。」


「陽花さんの彼氏です。柳葉月と申します。」




明らかに怒っているもみじと冷静に話す柳さん。



どうしよう……このままじゃまずい。




「もしかして、そいつがバイトの雇い主か…?お前、援助交際していたのか…!?」
「彼女にはそんなことさせていませんよ。僕が描く絵のモデルになってもらっていました。」
「モデルって言ったって高校生相手にするなんておかしいだろ。下心があるに決まってんだろ。紫吹、そいつから離れてこっちに来い。」


「僕みたいな無名の絵描きは自分でモデルを雇わなくてはいけませんからね。まあ、未成年を雇用したことに関しては謝りますが彼女の意志のもとで描きました。」

「紫吹……お前は良い子だからわかるだろ。戻ってこい。葵たちも近くにいる。」







「もみじも……そんなこと言うんだね。」




“良い子”。






もみじだけは絶対にそんなこと言わないって思っていた。周りの人たちが私を特別視しても、もみじだけは子供だと…まだ手がかかる子だと言ってくれると信じていた。なのに……






「どうしてそんなこと言うの…?もみじなんか大嫌い!」






柳さんの腕を引き急いでその場を離れる。








「ちょっと、待って。落ち着いて、陽花ちゃん。さっきのって……。」
「私の学校の担任です……。」


「戻ろう。戻って説明しよう。」

「嫌だ……もうこれ以上、私を殺したくない……。」






今まで心の中に引っかかっていた何かが崩れた。とめどなくあふれ出る涙をすべて柳さんにぶつけた。こんなの最低だって分かっている。嫌われるって分かっている。でも…止められない。




「陽花ちゃん……。」

「私は……柳さんの前でしか甘えられないんです……。学校では皆、私を“良い子”だと言う。できる子だと言う。本当は何もできないのに守られて頼られて……もう辛いんです。」




「君が……僕と本当に付き合いたいなら、ちゃんと戻ろう。僕は……自分でケジメをつけられない子は嫌いだよ。」

「嫌だ……嫌いにならないで……。」

「なら、戻ろう。陽花ちゃんが話せないなら僕が彼と話す。」
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