最低な男
 愛してる、大好きよ。この世界、そんなことばっかりでつまらないのよ。もちろん、本当に愛しているならいいと思うわ。でも、中には嘘を吐く奴もいるのよ。でも、それが人間って奴なのだから、仕方ないわよね。

 高校時代に付き合っていた男から、メールが来た。寄りを戻したいという、おかしなメールだった。このメールの男は、私をこっぴどくふったというのに、どうして今更。私のことなど愛していないと、そう言って私の元から去ってしまった男と、どうやって寄りを戻せというのかしら。
 昔は私が振られたのだ。今度は私が振ってやろう。ただ、それだけだった。私は、私の家から少し遠い場所を指定して、男を待った。引っ越していないのなら、男の家からは近いであろうそこに、男は私がつく前から立っていた。まるで、本当に私に会いたくてたまらないように。
「こんにちは」
 私が後ろから声をかけても、男は驚く様子もなく、こちらを振り返ると嬉しそうに笑った。馬鹿な男。これから私に、小さな復讐をされるとも知らないで。
 笑ってやりたい気分だった。けれど、同時に泣きたくもあった。昔の怖さと悲しさを思い出してしまったから。さっさとさよならを告げて、帰ろうと思った。こんなところにいたって、無意味なのだから。
「別れて何年も経ったけれど、やっぱり君が好きなんだ」
 あら、私のことなんか嫌い、顔も見たくない、じゃなかったの。おかしな人ね。私が断ってやろうと笑うと、男は気まずそうな顔で私よりも先に笑う。
「俺、ちょっと金に困ってて……」
 私は目を見開いた。なにかあるだろうと思ってはいたが、まさか本当にその予感が当たるなんて。ていうか、話切り出すの、早すぎじゃ無いかしら。それじゃあ、逃げられちゃうわよ。それにしても、面白い。別れた女を呼び出すほど困っているなんて、それこそ絶望へ落としがいがあるというものだ。
「ごめんなさいね、あなた、ないわ。さようなら」
 私はそれだけ言い残すと、クルッと方向転換をして、歩き出した。人通りの多いこの場所だ。これ以上あの男が追ってくることもないだろう。
 それにしても、笑えるわねえ。何年も前に別れた男から、お金欲しさに愛を囁かれるなんて。悪く無い時間だったわよ。期待してしまった自分がいたから。いい勉強になったわ。やっぱりあなたは最低だったんだって。だから、今度こそ、本当にさよならよ。今度こそ、今度こそ……。

 ねえ、人間って、面白いと思わない。どれだけ酷く裏切られても、愛する気持ちが消えない時って、本当にあるのね。全く、私、自分が恥ずかしいわ。
 あの時、メールで愛してるなんて言われてしまってね。嘘だとわかっていたのよ。でも、嬉しかった。
 慰めてくれるの。ありがとう。……ああ、ごめんなさいね、その先は言わないで。私、愛してるって言われたく無いのよ。いうのも嫌。だって、私はまだ……。
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