捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
「そんなに急に何かあったの?」
「そう、うち、三栖ビジネスソリューションズでトラブルがあったせい。さっき決まったの。緊急帰国なので、あまりおめでたくはないけど、たぶんひと月ほど日本にいるから」

奏士さんが帰ってくる。そのことに私の胸はとくとくと早鐘を打ちだした。もう少しで会える。

「奏士さん、忙しいのね、やっぱり」

浮かれないように自分を律して口にする。沙織さんが苦笑いして答えた。

「長くダブルワークの状態なので、部下としてはそろそろ日本を完全な拠点にしてほしいかなあ」

もしそうなれば、ずっと奏士さんと一緒にいられる。そう思うだけで、ぶわっと身体の奥から喜びが湧き上がってくる。
だめだ。落ち着こうと思っているのに、奏士さんに会えるとなったら、嬉しすぎて楽しい想像しかできない。遠足前の小学生みたいに落ち着かない気持ちになってしまう。

「ほんのひと月だけど、おふたりで過ごせる時間もたくさんあるわ。ご報告ね」

沙織さんはそう言って上機嫌で帰っていった。この会話は私と沙織さんだけのもので、周囲に聞こえる声量だったわけじゃない。
だけど、私の顔は明らかに締まりがなくなってしまったようで、この日いろんな人に「里花さん、何かいいことあった?」と尋ねられることになった。

奏士さんからもすぐに連絡があった。

【成田から直接会いに行くよ】

その言葉を目にして、私の頬はいっそう緩んでしまったのだった。

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