捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
「半年間、戻れなくてすまない」
「寂しかったです。でも、ついて行かなかったのは私だから」

頬を寄せたい。キスをしたい。きっと、私はそんな表情をしている。
奏士さんからも溢れる強い愛情を感じる。お互い気持ちをこらえて、私たちは身体をそっと離した。

「今日はデートできるんだろう」
「はい」

抱擁を解いた代わりに、奏士さんが私の手を取る。指と指を組み合わされ、きゅっと手を繋がれると、妙に緊張した。

「そ、奏士さん」
「子どもの頃手は繋いだけど、こういう繋ぎ方は初めてだな」

奏士さんもまた照れくさそうに笑っている。

「まずは食事に行こう。割と近いから、歩きでいいか?」
「ええ」

手を繋いでいられるならどこまででも歩きたい。外は冷たい二月の風が吹いている。私も奏士さんもコートを着ているけれど、繋いだ手と手は温かい。そこから全身に熱が回る。
ドキドキする。奏士さんといると、ずっとドキドキしてる。
これが恋なのだと半年前よりもっと自覚した。幼い頃感じた淡い気持ちを何十倍にも重ねた密度の濃い感情だ。

「一応初デートなのに、馴染みの店で悪いな」

ふたりでやってきたのは老舗の懐石料理店だ。子どもの頃から何度か来ている。そういえば、奏士さんのご家族とも来たことがあると思いだした。
< 108 / 193 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop