捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで

奏士さんが嘆息した。

「俺は好きな女性だから結婚したいんだ。でも、その本人に他の女性の方が似合っていると言われるのはきついな」

紅茶をひと息で飲み干し、奏士さんが立ち上がる。

「それとも、これは里花なりの断りの文句なのか……いや、すまない。忘れてくれ」

断るために他の女性と似合うなどと言っていない。違う、すべては私が嫉妬から疑うようなことを言ってしまったせいだ。

「ごめんなさい、奏士さん。変な言い方をしました」
「いや、今日はお互いに頭を冷やそう。また連絡する」

どこまでも優しくあろうとする彼に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「じゃあ、里花。またな」

玄関先で、軽く私をハグし、奏士さんは出て行った。その背中を見送って、自分のおろかしい言動で、奏士さんを痛めつけてしまったと感じた。せっかく来てくれたのに、私は自分の『苦しい』を押し付けた。
彼が帰ってから、あらためて自分の言動を反省した。
マノン・ルーセルへの嫉妬は簡単になくならないけど、奏士さんと嫌な雰囲気で居続けるのは嫌だ。なるべく早く会って、この不穏な状態を解消しなくては。

しかし、翌日沙織さんから新たなニュースがもたらされた。
奏士さんが予定を早め、来週にはまたアメリカに戻るとのこと。アナ親子と一緒だそうだ。
奏士さん本人からも連絡はきたけれど、直接会って話す機会はない。
こうして私は、また彼を待つ日々に戻ったのだった。