捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
日々を過ごすことに集中する。
私は奏士さんと離れていた半年に心を戻した。粛々と自分を磨き、仕事をする。

アメリカにいる奏士さんからは頻繁にメッセージが届く。あんなかたちで別れてしまったことを、気にしているのだろう。思いやり溢れる文章に、私はいつも切なくなった。

それでもまだ、私の中には奏士さんとマノンの並んだ姿が焼きついていた。彼女の方が奏士さんに相応しいのではないかという気持ちは、心の中でくすぶっている。
だけど、実際そんなことになったら、私は耐えられるかわからない。いや、きっと耐えられない。
この前の件で、奏士さんの私への気持ちが冷め、彼女の方へ向いてしまったらどうしよう。そんな不安に胸が苦しくなる。彼と曖昧な関係のままでいたのは私の希望なのだ。奏士さんが心変わりしても、私は責められる立場にない。

メッセージ上では変わらない奏士さんに安堵しながら、直接会ってきちんと話したいという気持ちがふくらむ。

「里花さん、険しい顔してますよ」

仕事中に後輩の女子に声をかけられ、はっとする。

「ごめんなさい。少し考え事。午後の発注のことで」
「里花さんたら、そんな顔になるまで真剣に考えるなんて真面目」

嘘をついてしまったことに罪悪感を覚えながら、私は集中しようと自分の頬をぽんぽんと叩いた。

「驚かせちゃってごめんなさいね」

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