捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
盛大な結婚式が執り行われたのは交際から半年後、縁談の話が来てから半年ちょっとでのスピード婚だった。私と京太は高輪に新居のマンションを構え、新婚生活を始めた。

『俺が忙しいばっかりに新婚旅行にも連れて行ってやれなくてごめんな』

そう謝る京太に、私は首を振った。

『いいえ、京太さんがお仕事を頑張っていることの方が大事です』

忙しいと言う割、最初の一ヶ月、京太は定時過ぎには帰宅していた。
私の作った夕食を食べ、仕事だと部屋にこもる。なるほど自宅でも仕事をしているのだ、と私は真面目な夫を邪魔しないように静かに過ごした。

やがて京太は、帰宅し食事をとった後、会社に戻る日が増えた。私のために一度帰宅してくれるなんて、と夫への感謝の気持ちを覚えていた私は、随分おめでたい女だった。

夫婦として求められないことも、大事にされているのだと解釈していた。きっと、私が男性経験がないことを見抜いて、ゆっくり事を進めようとしてくれているのだろう、と。

しかしさすがにひと月近く何もない状態が続く妙だなと思うようになる。結婚すればそういうことは避けられない。むしろ、両家にとって初孫を成すことも大事な仕事だと心得てきた。授かり物だし、こればかりはどうにもならないから気長に待つつもりではあったけれど、指一本触れ合わないで、子どもはできない。

かといって、男性経験ゼロの私にはどう誘えばいいのかもわからなかった。仕事だからと部屋にこもる京太に無理やり迫るわけにもいかず、最初のひと月が過ぎて行った。
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