捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
「本人は隠していたけれど、微熱が続いていたそうだよ」
「あの子、全然言わないから」

ぞっとした。最初の病気のときも、由朗の異変は微熱からだったのだ。ああ、毎日顔を合わせていて気づかなかったなんて。姉失格だ。
この無力感は両親も同じようで、私たちは病室の前でうなだれた。

「あの、私も功輔も由朗さんとは友人です」

沙織さんが言う。沙織さんも泣きそうな顔していた。

「なんでもお手伝いしますので、おっしゃってください」
「門司さん、ありがとう。心強いよ」

両親が頭を下げ、私たちは一度帰宅することとなった。先に帰っていてほしいというので、私を沙織さんと功輔さんが車で自宅まで送ってくれることになった。
由朗の病状が、たいしたことじゃなければいい。再発というワードが頭から離れないからこそ、私は祈るように思った。

地下の病院駐車場まで降りてきて、沙織さんが立ち止まった。見れば大粒の涙が頬を伝っている。

「里花さん……由朗くんが……」

そのまま言葉にならない。嗚咽が聞こえ、隣にいる功輔さんが沙織さんの背をさすった。
やはりそうなのだ。私は沙織さんの顔を覗き込む。

「由朗の大事な人なのね、沙織さんが」
「ずっと言えなくてごめんなさい」
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