捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
翌日から私はすこぶる忙しくなった。
まず宮成商事においては、由朗の担っていた業務の半分を肩代わりすることになったからだ。
営業関連の仕事はさすがに一朝一夕でできることではないので、営業部に預け、私は父の秘書業務を完璧にこなさなければならなくなった。今までの手伝いなどのレベルではない。すべて私の責任で行う。

父は無理をするなと言ってくれているけれど、父が由朗の入院に精神的にダメージを受けていることは間違いない。由朗は跡取りなのだ。母もまた、ひっそりと泣いているのを知っている。
家族を、会社を支えるのは私の役目だ。

由朗の検査結果は翌日夕方には出て、幸いなことに以前の病気の再発ではなかった。
しかし、過労から肝臓がかなり弱っているそうで、二週間は病院で安静とのこと。
由朗本人は目覚めてからはすっかり元気そうで「ひ弱で嫌になっちゃうよなぁ」と笑っていた。
日中は専業主婦の母が面会時間にいるし、夜もしばらくは宮成商事の関係者が見舞いに訪れていた。
私が夕方、沙織さんを伴って病室を訪れたのは入院から四日後のことだ。

誰もいない個室、私たちが入室するまで由朗は読書をしていたようだ。私たちの顔を見て、にっこり笑う。

「姉さん、沙織ちゃん、いらっしゃい。なんか美味い物持ってきてくれた?」

軽口をたたく由朗はまだ私がふたりのことを知っていると知らないのだ。私は沙織さんの背を押し、前に進みださせる。

「少しの間、ふたりきりでどうぞ」
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