捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
由朗が驚いた顔になる。沙織さんが「里花さんに話した」と言い、それから由朗のベッドに駆け寄った。涙する沙織さんと、抱き締める由朗の姿を視界に片隅に入れ、私は病室を出る。
外には功輔さんが待っていた。

「里花さん、ありがとうございます。沙織、ずっと里花さんを裏切ってるって悩んでました」
「裏切りじゃないよ。むしろ、由朗を支えてくれる人ができて嬉しいの」

由朗はずっと私と比べられてきた。頑健な身体さえ持っていれば、跡取りとして誰からも文句は言わせないのにと思ってきただろう。

「由朗、私や両親の前ではへらへらしてるの。倒れちゃってごめんとか、病気してごめんとか。高校の頃もそう。でも本当は悔しくて泣きたいのは由朗だったと思う。由朗が、甘えられる場所ができてよかった。きっと、沙織さんになら弱い部分を見せられると思う」
「それならよかったです。俺もホッとしました」

そう言ってから、功輔さんが気づいたように顔をあげる。

「……里花さんが奏士社長と結婚して、沙織が由朗さんと結婚するとなると、必然俺は奏士社長の義弟になりますね」
「ええ、まあそうなるかな」
「ちょっと緊張しますね。今度、社長を義兄さんと呼ぶ練習をしてみます」

大真面目でそんなことを言うので、私は吹き出してしまった。

「じゃあ、私のことも義姉さんと呼ぶ練習をしてください」
「はい、義姉さん」

私たちは顔を見合わせ笑った。沙織さんと由朗は三十分ほどふたりで語らった。私はまた沙織さんを連れてくる約束をし、三人で病院を後にしたのだった。

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