捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
ふた月目には、京太の帰宅自体がぐっと遅くなった。

『忙しいから家で食事はできない。夕食を用意しなくていいよ』

そう言った京太は疲れているのか、出会った頃のような笑顔はなくなっていた。深夜帰宅や外泊が増え、私は心配だった。それほど忙しい仕事で、彼の体調は大丈夫だろうか。

その日私は郷地物産の副社長室を訪れた。妻として、京太の身の回りの世話を焼くために。会社に泊まり込んでいるなら、きっと洗濯物や生活用品の交換など必要だろうと、無駄に気を利かせてしまった。

『京太さんなら外出中です』

副社長室には綺麗な女性がいた。背の高いロングヘアの美人だ。
京太さん、とこの人は言った。副社長、ではなく。その呼び方が引っかかったが、すぐに笑顔を作る。

『そうですか。いつ戻りますか?』
『しばらくはお戻りになりません』

彼女は曖昧なことを言い、私を見下ろしてクスクス笑った。この女性は京太の秘書だろうか。仕事について何も聞いていないので、判断がつかない。

『洗濯物などあれば持ち帰ります。これ、新しいシャツです。忙しいようなので』

私の差し出したシャツを受け取り、彼女はおかしそうに言った。

『ご心配ありがとうございます。でも、京太さんのシャツやスーツは私の家に予備がたくさんありますので』

一瞬、何を言われているのかわからなかった。宣戦布告なのだと気づいたのはその後。
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