捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで

しかし、中学三年になる頃には、自分の認識をあらためた。10歳の里花は、手足がすんなりと伸び、スレンダーな少女の姿に変貌しつつあった。
まだ無邪気に俺に飛びついてきたりしていたけれど、そんな彼女にどきっとしてしまう。高学年に上がる頃には俺を「奏士さん」と呼ぶようになり、手を繋いだり抱きついてくるようなことはなくなった。
寂しさよりホッとした。俺は五つ下の幼馴染を意識してしまっていた。これ以上無邪気にくっついてこられては困る。
同時に思った。妹じゃなくてよかったのだ。里花が妹だったら、俺はこのドキドキとした胸の高鳴りを知ることはなかっただろう。


里花が中学一年、俺が高校三年の夏のことだ。三栖グループが出資した企業の納涼祭があった。
我が家は招かれていたし、里花も両親と由朗と参加すると聞いていた。
まだ日が高い夕刻、広々とした会場の屋外テラスには提灯が飾りつけられ、社員たちが出す屋台がずらりと並んでいた。
俺はサイダーを飲みながら、暑さに耐えていた。父と兄の命令で、シャツにネクタイという格好だったからだ。納涼祭なら半袖短パンくらいの格好で参加したいものだが、立場的にそうもいかない。

「奏士さん」

汗を拭いていた俺の耳に聞き馴染んだ声が聞こえた。振り向くとそこには里花がいた。朝顔柄の白い浴衣を着て草履を履き、祭客の間を抜けてパタパタと走ってくる。
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