捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
無邪気な笑顔が俺に向けられている。気づけば、俺は息を呑んでいた。心臓が知らずばくばくと大きな音を立てだす。

「奏士さん、髪の毛が違う」

里花が俺を見上げる。ワックスであげられた髪が珍しかったようだ。そう言う里花も今日は長い黒髪をアップにしている。浴衣の襟と首筋のラインにそわそわした。ひと筋うなじに落ちる髪もまた、心を掻き乱す。

「里花、浴衣可愛いね。似合うよ。髪の毛もアップにすると雰囲気が違うね」

精一杯冷静を装い言葉にすると、里花が照れたように微笑んだ。その表情がまた俺の鼓動を高鳴らせるのだ。

「嬉しい。奏士さんに褒めてもらったら、自信持っちゃう」
「自信なかったの?」
「身長の伸び、止まっちゃったみたいで。私の予定ではもう少し背が伸びて、大人っぽくなる予定だったから。浴衣もすごく調整したのよ」

腰の部分をちらりと見せてくれる。
なるほど、里花は自分のスタイルを気にしているのか。確かにこの身長でストップなら小柄な方だろう。顔も童顔なので、子どもっぽくは見えるかもしれない。

「まだ中学一年だろ? これからいくらでも大人っぽくなれるよ」
「でも……」
「今の里花も充分可愛い。俺個人は、里花の顔も身長もいいバランスだと思う」

ロリコンじゃないぞ、と一応付け足すけれど、俺は焦っていた。
駄目だ、ロリコンじゃないなんて言いながら、里花から目が離せない。まだ中学一年生の里花にこれほどときめいてどうするんだ。
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