捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
里花が笑った。

「奏士さん、兄馬鹿だよ。私のこと、妹みたいに思ってるから、よく見えるだけ」
「そんなことないよ」

そうだ。そんなことはない。もう里花をただの妹とは見ていない。
妹相手に、こんな気持ちになるはずがない。
俺が言葉に迷っていると、兄が俺を呼ぶ声が聞こえた。おそらく挨拶周りに付き合わされる。

「里花、ちょっと行ってくる」
「頑張ってね」
「あとで、屋台回ろう」
「うん」

里花が花のように笑うのを見て、胸がぎゅっと締め付けられた。この感覚はやっぱりおかしい。
日が暮れ提灯に灯りが灯る頃、俺と里花はふたりで納涼祭を回った。由朗や里花の両親も近くにいたし、完全にふたりきりじゃなかったけれど、俺としてはちょっとしたデートの気持ちだった。

「奏士さん、写真撮ろう」
「いいよ」
「もっと笑って」

俺の横で楽しそうにしている里花、いろんなことを喋ってくれる里花。熱気と灯りに包まれ、里花が殊更綺麗に見える。

ああ、俺はこの子のことが好きなんだ。
すとんと腑に落ちるような感覚がした。この夏の晩、俺は恋を自覚した。
きっと子どもの頃から里花が好きだった。俺だけのお姫様だった。

だけど、十八歳の俺は里花にどんなことを伝えればいいのかわからなかった。五つも年下の彼女に、言葉で伝えられることなんてほとんどなかった。
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