捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
「父さんわかりました。俺は留学します」

ただひとつ、里花のことだけが心に引っかかる。
これから長くアメリカで暮らす俺が、里花を婚約者にと望めるだろうか。まだ十五歳にもならない里花。傍にいることもできないのに、待っていてくれと彼女の未来を縛るのは残酷なことだ。
俺さえ里花を諦められれば、里花は自由だ。進学も就職も恋も、俺に縛られずに選べる。

大事な大事な里花。俺の欲しい気持ちだけで、束縛していい相手じゃない。
俺は掌中の珠を手放すことに決めた。

留学前に宮成家へ挨拶に行った。里花は浮かない顔をしていた。俺の留学を寂しがってくれていることがわかり、後ろ髪を引かれる思いだ。
しかし、里花の感情は恋ではない。兄への情愛に近いだろう。兄が海外留学するとなれば、妹は寂しくて当然。
俺の気持ちとは違う。俺の寂しさとは違う。
だから俺は里花に気持ちを伝えずに行かなければならない。

「里花、年に何度かは帰国するからほしいお土産はリクエストしておけよ」

あえて明るく言った。里花は視線を泳がせてから顔をあげた。困ったように笑う。

「奏士さんが元気に帰ってきてくれることがお土産かな」
「里花はお袋みたいなことを言うなあ。大丈夫、健康に気をつけて、心配かけないようにするよ」

大好きだよ、と言うことはできない。
俺は里花と別れ、日本を後にした。

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