捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで


叔父の下で働きだしてからは、ものすごく忙しい日々だった。叔父は早々に俺に役職を譲り、サポートに回ってくれた。責任が増し、俺はいっそう目まぐるしく働くようになった。
年に一度は帰国したいと思っていた日本にもなかなか帰国できなくなる。
三栖本社の顧問弁護士の門司先生の息子と娘が、大学を卒業してすぐに俺の下についてくれた。俺自身も徐々に仕事を楽しみ、創意工夫ができるようになってきた。
気づけば三十歳目前だ。

里花にはもう何年も会っていない。最後に会った彼女は大学生だった。お土産を渡しにいき、顔を合わせたくらいだったけれど、ぐっと大人っぽくなり可愛らしい女性に成長した里花に動揺した。
会うまでは平気だと思っていたのに、顔を見ればまだ恋心が生きていると実感してしまう。

里花が大学を卒業し、俺が日本に戻る算段がついていたら、もう一度里花との婚約を考える余地はあるだろうか。そんなふうに考えないでもなかったが、俺はまだ先を見通せるほど余裕がなかった。三十を目前としたこの時点に至ってもだ。

里花が婚約したと聞いたのはその直後だった。
里花は郷地物産の後継者と婚約し、半年の交際を経て結婚した。
郷地物産は新興の企業だが、三栖本社とも取引があるし、これから伸びていくのは想像できる。金銭的に里花が苦労することはなく、ひとり息子の妻に収まったのなら、大事にされることだろう。
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