捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
さりとて、ここを出てどこに行けばいいだろう。今夜寝る場所が必要だ。
ビジネスホテルに行ってみようか。あとはネットカフェという手もある。利用したことはないし、安全面は少し怖いけれど、今夜一晩のこと。明日にはきっと、“彼”の怒りも多少ほどけているではなかろうか。
でももし、そうでなかったらどうしたらいいのだろう。
もう終わりなのだろうか。この結婚は。
「里花……?」
名前を呼ぶのは聞き馴染んだ声だった。顔をあげると、そこにいたのは奏士(そうし)さんだった。
「奏士さん……」
三栖(みさい)奏士さん、三栖家の次男で私より五つ上の幼馴染だ。
二重のきりりとした目に、鼻筋の通った美しい顔立ち。身長が高く、ハイブランドのスーツを着こなしている。
こんなところで偶然会うなんて……。
「ひとりか?」
「ええと」
夫も近くにいると言えばいいだろうか。彼は絶対不審に思っているはずだ。閉店間際のホテルのラウンジでひとりぼっちでいる私を。
だけど夫も一緒だと言えば、奏士さんは挨拶をすると言うだろう。来るはずのない夫を待つわけにもいかない。
「ひとりなんだな?」
答えられないでいる私の目を、奏士さんは確認するように覗き込んだ。美しい彼の黒い瞳に、情けないほど泣きそうな私の顔が映る。
奏士さんの両手がそっと私の両肩に置かれた。そのまま立ち上がらされる。
ビジネスホテルに行ってみようか。あとはネットカフェという手もある。利用したことはないし、安全面は少し怖いけれど、今夜一晩のこと。明日にはきっと、“彼”の怒りも多少ほどけているではなかろうか。
でももし、そうでなかったらどうしたらいいのだろう。
もう終わりなのだろうか。この結婚は。
「里花……?」
名前を呼ぶのは聞き馴染んだ声だった。顔をあげると、そこにいたのは奏士(そうし)さんだった。
「奏士さん……」
三栖(みさい)奏士さん、三栖家の次男で私より五つ上の幼馴染だ。
二重のきりりとした目に、鼻筋の通った美しい顔立ち。身長が高く、ハイブランドのスーツを着こなしている。
こんなところで偶然会うなんて……。
「ひとりか?」
「ええと」
夫も近くにいると言えばいいだろうか。彼は絶対不審に思っているはずだ。閉店間際のホテルのラウンジでひとりぼっちでいる私を。
だけど夫も一緒だと言えば、奏士さんは挨拶をすると言うだろう。来るはずのない夫を待つわけにもいかない。
「ひとりなんだな?」
答えられないでいる私の目を、奏士さんは確認するように覗き込んだ。美しい彼の黒い瞳に、情けないほど泣きそうな私の顔が映る。
奏士さんの両手がそっと私の両肩に置かれた。そのまま立ち上がらされる。