捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
「ええ? 里花さんは被害者で、私たちは被害にあった方を保護しただけです。ご迷惑ではないですよ」

沙織さんは立ち上がり、ハンガーにかけた私のワンピースの皺を手で伸ばしてくれた。明るい彼女に感謝しながら、袖を通す。

「それに、里花さんは社長の幼馴染でしょう。社長は絶対に里花さんを嫌な旦那のところになんか帰しませんので安心してくださいね」

私は困惑していた。昨日の様子だと、奏士さんは私をかくまってくれるつもりかもしれない。だけど、それが良いこととは思えない。

「さ、行きましょう。お化粧、本当にいいんですか?」
「ええ、大丈夫」

沙織さんがメイク道具を貸すと言ってくれたのを断った。実はもう何ヶ月もろくにメイクなどしていないので、昨日もアイブロウとリップくらいでほぼノーメイクだったのだ。
マンションの隣の部屋は功輔さんの部屋だそうだけど、彼はもう出勤していると言う。沙織さんとふたりオフィスへ向かった。マンションからは目と鼻の先だ。

朝七時半。奏士さんのオフィスにはテイクアウトしてきたサラダやサンドイッチが並んでいた。

「おはよう、里花。少しは休めたか?」

奏士さんが近寄ってきて、私の髪を撫でようとしてくれた。しかし、すぐに手を引っ込める。夫と関係が上手くていっていなくても、私の立場は人妻なのだ。
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